今総長の「養之如春」

今 裕 第4代総長揮毫の扁額「養之如春」

掲示場所

 北18条にあった第2代恵迪寮舎に掲げられていたが、講堂だったか、寮務事務室だったか、応接室だったか明らかでない。現在は、北海道大学の大学文書館に寄託している。

揮毫経過と文意

 この扁額は「恵迪寮小史」の刊行に合せて1942(昭和17)年に書かれたと推定される。額の右上にあるカンボウは、「一生稽古」と記されており、先生の座右の銘であったのであろう。

 「養之如春」(之を養うこと春の如し)は、『春秋』(繁露巻第十、十六)を原典とするようであり、「之」が「心」を指すと解されるから「心を養う」、つまり、『もっと勉強したいという時に、春が万物を育てるように、ぽかぽかのんびりと育てるべきだ。』と読みとれる。これが揮毫された昭和17年と言えば、すでに配属将校が軍事訓練を行い、3年半や3年で繰り上げ卒業をさせて若き卒業生を軍隊に動員したばかりか、兵役免除の対象学科を見直して学徒動員につながる動きが明確化した時であった。漢籍辞典の『字通』は、「心」が「これがしたい」「これになりたい」といって赴く先のことを「之」というと述べており、若き学徒の心に「之」の目標に疑念が強くのしかかった時であるため、今先生の総長としての執行義務と教育者として理念が相克した文と想定される。

 この扁額は、縦77cm、横1m76cmの比較的大きな額に表具されている。

揮毫者

 第4代総長今裕(こんゆたか)先生は、医学部病理学第1講座教授で、細胞学が専門であり、1934(昭和9)年に「組織の銀反応」の研究で学士院賞を受賞されている。戦時体制下の1937(昭和12)年12月から1945(昭和20)年11月まで総長を務められ、大変な苦労をされた。ただし、書額「立身沢作」の紹介文を再録。